「レタイトナイト」について

2018~2021年に描いていた「ベルリンうわの空」のシリーズのあと、どうしても試してみたくて「プロジェクト発酵記」というのを2022年に連載させてもらった。

「発酵記」は、さらに次の連載「レタイトナイト」の準備をレポートしていくような内容で、連載前にメイキングを見せていく感じ。自分なりの真剣さを事前に示したかったのもある。

で、その「レタイトナイト」には、自分にとって2つの大きな側面がある。

まず1つ目は、直近で描いていた「心のクウェート」「ベルリンうわの空」の方法から、変化させること。「心ク」「うわの空」では、実際の経験をベースにした現実が舞台の漫画の中で、自分の考えを比較的直接的に書いてる。この方法のおかげで、似た考え方や感性の近い人に漫画を見つけてもらいやすくなった。「見つけてもらう」というのは本当に大変なことで、もちろん広めてくれたりした人やお店や媒体のおかげでもある。それはそれでいいとして、「レタイトナイト」では少し変えている。

「レタイトナイト」では「すこし遠くにも届く」という部分を焦点にしている。文明・世界・社会・人生についての自分の考えが描かれるからこそ、現実から距離のある表現を使うことで、「必ずしも意気投合するとは限らない相手」にも余白をもって届けられたらいいなと思う。その変化はきっと「うわの空」を楽しんでくれた人こそ喜んでくれるような気もしている。

2つ目はほとんど誰にも関係ないことだが、「レタイトナイト」は、自分が20歳の時に描いていた「この世の果てのアリス」のやり直しになっている。「アリス」は2001年に上下巻、合計150ページぐらいの自主制作漫画で、たぶん100~200冊ずつしか刷ってないと思う。

物語の時代や風合いは「レタイトナイト」と同じ。農作物を荒らす獣がいて、魔除けによって獣が進化してしまうという話が主体になっている。農薬耐性遺伝子みたいな話なんだろうか。とにかくそこで、言葉をしゃべる獣とか拝火教・製鉄のようなものが出てきて、主人公は進学をやめて、世界の端がどうなっているのかに疑問を抱いて旅をする、というものだった。これを改めて考えつつ、当時やりたかった芯を思い出して補強したのが「レタイトナイト」だ。

この2つの側面は要するに、大げさに言えば「最新の自分」と「最初の自分」かもしれない。それを合わせてみて、どんどん描いてみよう!という感じ。

「レタイトナイト」は、「ベルリンうわの空」「プロジェクト発酵記」とは違う媒体「路草」で連載開始した。これは単純に担当の井上さんがここに移ったからだ。井上さんだけでなく、一緒に作っているゴボリくん、あぞさん、IDeeezのメンバーも一緒で、とても安心して作業できている。

自分にとって、こんなに毎日漫画を描いて、それを読んでもらえて、本になるということは、普通のことではない。こんな状態は自分の力で手に入れたものでもないし、いつ終わってもおかしくない。届いてほしい相手にしっかり届けるために、後悔無いようにやっていこうと思っています。